帰心如箭 3





リムジンが に呼ばれて飛んで行ってから 悟空・悟浄・八戒の3人は

押し黙って 時を過ごした。

リムジンは帰ってこないし 隣の部屋はやけに静かだ。

まだ 甘い吐息や嬌声でも聞こえれば と三蔵が離れる時までを

惜しんでお互いの身体を 求め合っているとでも思えなくはないのに、それもない。

だからと言って の気配が無くなってもいないので、

リムジンに乗って出て行ったというわけでもない。

「どうしちまったんかねぇ?

お隣、まるでお通夜だぜ。」

「そうですね、2人して睨み合っているんでしょうか。」

「そう考えるとだ どっちが勝つと思う?」

「まあ 三蔵でないことだけは 確かですね。

しかし 今回は いくら三蔵でもに譲れないでしょう。

僕が知っているならば ここで 三蔵を困らせるような事はしないと思います。

ただ ここで待ちたいという事くらいは 言うでしょうが・・・・・。」

「そうだな。」

悟浄は 次の煙草に手を伸ばした。





「悟空 もう寝て下さい。

何か変わったことがあれば ちゃんと起こしてあげますから。」

八戒に促されて 悟空は頷くと ベッドに入った。

悟空が寝付いた頃 隣室から三蔵が 戻ってきた。

「どうでしたか 三蔵。」

「あぁ。

先に から切り出しやがった。」

「そうですか・・・・さすがですね。

それなら 何故 リムが呼ばれたんですか?」

「使いに出したらしい。

なんか お守りを持たせたいらしいから 用意するものがあるといっていた 

それは許してやったが、そのためには 今夜は潔斎をして 札を創らねばならんらしい。

・・・・追い出された。」

三蔵は もの凄い不機嫌な顔で 説明をした。

八戒も悟浄も そんな三蔵が気の毒だが おかしかった。

「笑うな。」

「くっくっ すいません。

三蔵と過ごすよりも お守りの御札の方を選ぶなんて らしいと思いまして・・・。」

「だよなぁ。」

これ以上何か言われるのを拒むように 三蔵は ベッドに入った。




翌日1日。

は いそいそと準備に忙しそうだった。

朝一番に買い物に出かけ なにやら買い込んでくると 

部屋にこもって何かしている。

三蔵は そんなの側で ただ いつものように新聞を読み 煙草を吸う。

いつもの宿の風景と一緒だ。

2人とも これといって何も話さない、

悟空も悟浄も八戒も 気を利かせて2人だけにしているのに

それを有効に利用しようとしない2人に ため息が出る。

「なんだか 肩透かしを食らったみたいな気分なんですけど。」

「そうだよなぁ、俺 といたいのを すげぇ我慢してんだぜ。」

「あそこまで 普段どおりだと あほらしいな。」

「だけど あれでいいのかもしれませんよ。

三蔵が 別れを惜しむような真似をすれば 

だって 2度と会えないと思うじゃないですか。

僕たちの死を 覚悟しなければなりません。

三蔵がいつもどおりだからこそ も落ち着いていられるんですよ。」

「うん それもそうだよな。」

3人のそんな心を知ってか知らずか いつもと変わらない2人は 

静かに時を過ごしていた。




翌朝。

まだ 朝もやの残る中を 宿の前で5人と2匹は いつもとは違って

出発するものと 見送るものに分かれていた。

「悟浄 気をつけてね。

貴方には 肉親と戦わなければならない辛い選択が 待っているわ

それでも 私は悟浄に帰ってきて欲しいの。」

は 悟浄に歩み寄り 初めてから悟浄の身体を抱きしめた。

驚いた悟浄が三蔵を見ると 予告してあったのか 明後日の方を見て

悟浄とを見ないようにしている。

 サンキュ。」

悟浄もの身体に手を回して 抱きしめた。

「八戒 みんなの怪我は 貴方が治すけれど、貴方の怪我は 誰にも治せないのよ。

今更だけど 充分注意してね。

3人をお願いね、八戒。」

八戒とも同様に抱擁を交わす、「 ありがとうございます。行ってきます。」 

「悟空 無茶をしないで 単独行動はダメよ。

必ず帰ってきてね。」

「うん 

俺 の所に帰ってくるよ。

だから もここで待っててくれよな。」

「えぇ 待っているわ。」

悟空との抱擁は 親子のような光景だった。




「これ お守りなの。気休めだけど 持って行ってね。

四方神の青龍の鬣を 守り札で巻いて 私の髪で縛ってあるのよ。

力の弱い邪気ならば それで払うことが出来るはず。」

は 守り袋を3人に渡した。

「ジープにも あるのよ。

貴方は 青龍殿の眷属(けんぞく)だから より効果があるでしょう。

編みこんでおいたからね。

八戒が運転できなくても 皆を乗せてここへ帰るのよ。」

「キュ〜。」

そういって ジープの首に自分の髪で編んだみつあみを巻き額に口付けを落とした。

は 最後まで何も言わなかった 三蔵の前に立った。

守り袋を差し出すと 三蔵はそれを懐へとしまった。

2人は じっと見つめあったまま 何も言葉を交わさない。

三蔵が 両腕を広げた。

はその中へ 静かに身を任せる。

 笑顔で見送ってくれ。」

「はい。」

抱擁を解き 三蔵はジープのナビシートへ。

は 少し離れた位置へ 2人は離れた。





千の誓いも 万の約束も 無駄になるかもしれない事を

三蔵もも知っていた。

共に過ごした日々を 約束の替わりにして、

求め合った夜を 誓いにして

黙って見送り 送られる 朝。





「行ってくる。」

「行ってらっしゃいませ。」

瞳には 溢れんばかりの涙をたたえていたが 

はジープが見えなくなるまで 微笑んだまま 

頬を濡らす事はなかった。





は思う、帰って来る三蔵は 朝日と自分に 向かってくることになる。

瞼を閉じて いつか見るはずのその姿を 思い描いてみる。

日の光を浴びた 三蔵は 夜も輝く太陽のように 見えるだろうと・・・・・・。

その頬を 涙がつたって落ちていった。









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ここまで お読み頂きまして ありがとうございました。
とりあえず 連載を終わりとしたいと思います。
私としては余韻を残した分 番外編や後日談も書きやすいと思いこの形を取りました。

ご感想などお聞かせ願えれば 幸いです。